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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1245号 判決

原告 大橋貿易株式会社

右代表者代表取締役 須田利一郎

右訴訟代理人弁護士 平田雄一

被告 株式会社 日新(旧商号 日新運輸倉庫株式会社)

右代表者代表取締役 筒井俊治

右訴訟代理人弁護士 太田忠義

右訴訟復代理人弁護士 柴田龍彦

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金三二五〇万円およびこれに対する昭和六〇年九月五日から支払済みに至るまで年六分の金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

三  請求の原因

1  原告は、海陸産物、諸雑貨、鉄鋼その他の加工品の販売および貿易を業とする会社であり、被告は、倉庫業等を営む会社である。

2  寄託契約上の債務不履行責任

(一)  原告は、被告に対し、次のとおりビルマ産黒マッペ(もやしの原料豆)SQの保管を寄託した。

(1) 寄託年月日 昭和六〇年一月一八日頃

寄託数量 一〇〇〇袋

寄託荷印 一九八四、MEITOH

ただし、右物品は、仁科産業株式会社からの寄託により被告がその摩耶埠頭倉庫に保管していたが、原告がこれを昭和五九年一一月二〇日土師産業株式会社から代金一〇〇〇万円で買い受け、仁科産業が土師産業に対して発行し土師産業が裏書した荷渡指図書(一一〇九号)を同六〇年一月一八日に被告の摩耶埠頭倉庫に郵送したので、以後、原告のために保管されることになったものである。

(2) 寄託年月日 昭和六〇年三月一八日

寄託数量 一五〇〇袋

寄託荷印 一九八四、MEITOH

ただし、右物品は、仁科産業からの寄託により被告がその摩耶埠頭倉庫に保管していたが、原告がこれを昭和六〇年三月一八日仁科産業から代金一一二五万円で買い受け、仁科産業が原告に対して発行した荷渡指図書(一三三三号)を右同日被告の摩耶埠頭倉庫に呈示し、以後原告が寄託する旨を申し出、被告はこれを承諾して右荷渡指図書を預かり、その写しに被告の受付印を押捺したので、同日以後、原告のために保管されることになったものである。

(3) 寄託年月日 昭和六〇年四月一七日

寄託数量 一五〇〇袋

寄託荷印 一九八四、KATOH

ただし、右物品は、仁科産業からの寄託により被告がその摩耶埠頭倉庫に保管していたが、原告がこれを昭和六〇年四月九日仁科産業から代金一一二五万円で買い受け、仁科産業が土師産業に対して発行し土師産業が裏書した荷渡指図書(一三二五号)を同月一七日被告の摩耶埠頭倉庫に呈示し、寄託名義を原告に変更する旨依頼し、被告がこれを承諾して右荷渡指図書を預かり、その写しに承諾する旨の受付印を押捺したので、同日以後、原告のために保管されることになったものである。

(二)  原告は、その後毎月末日に、被告の摩耶埠頭倉庫に対し電話で、右各物品の存在および数量の確認をしたが、その都度、被告の摩耶埠頭倉庫の担当者は、右各物品を原告のために保管している旨回答した。

(三)  被告は、昭和六〇年七月一八日、前記物品を保管していないとして、先に原告が被告に預けた荷渡指図書を原告に返送し、前記物品は原告から寄託を受けていないと主張している。

3  不法行為責任(予備的請求の原因)

(一)  原告は、本件マッペを次のとおり仁科産業から買い受けた。

(1) 前記2(一)(1)のマッペにつき

売買代金 一〇〇〇万円

支払方法 昭和六〇年一月二八日満期の約束手形

荷渡指図書の交付日 同月一八日

(2) 前記2(一)(2)のマッペにつき

売買代金 二五〇〇万円(ただし、これは右マッペを含む三〇〇〇袋分の代金であって、うち一一二五万円分は原告から仁科産業に再譲渡され、仁科産業が被告から品物を受領している。)

支払方法 昭和六〇年六月一三日満期の約束手形三通

荷渡指図書の交付日 同年三月一八日

(3) 前記2(一)(3)のマッペにつき

売買代金 一一二五万円

支払方法 昭和六〇年七月二九日満期の約束手形二通

荷渡指図書の交付日 同年四月一七日

(二)  被告は、本件荷渡指図書に重大な欠陥があり寄託名義の変更ができないことを知りながら、原告の寄託名義変更の要求に対して何ら異議等を言わずに本件荷渡指図書を受け付けた。さらに、被告の担当者は、本件荷渡指図書記載の貨物があるかどうかおよびそれが仁科産業の依頼による寄託物であるかどうかについての原告の再三の間合わせに対し、確かに仁科産業から右貨物の寄託を受けている旨回答をした。これは、以下の義務に違反したものであって、被告の原告に対する不法行為である。すなわち、

(1) 被告には、原告が本件荷渡指図書を呈示した際には、寄託者台帳と照合して、それが発行権限ある者によって発行され、かつそれに記載されている貨物が現に存在するか否かを告知する義務があった。これは、被告が倉庫業者として他人の貨物を保管し、これを出庫する義務に伴うものであり、また原告と被告間のこれまでの取引関係から当然に発生する義務である。

(2) 被告には、原告が本件荷渡指図書を呈示した際に、寄託名義人の加藤商会等の荷渡指図書がなく、荷渡指図書の連続を欠いていることを告知すべき義務があった。

(3) 原告と被告とは従来から本件と同種の取引を継続して行ってきたものであるところ、原告は従前の取引とまったく同じ方法により寄託名義の変更を要求して本件各荷渡指図書を呈示したのであるから、それによって寄託名義の変更ができないのであれば、被告は、その旨を原告に告知して受付けを拒絶すべきであった。

(4) 被告は、原告の本件荷渡指図書の呈示による寄託名義変更の申込みに対して、商法五〇九条に基づき、遅滞なく諾否の返答をする義務を負っていたものである。

(三)  原告は、被告が本件各荷渡指図書を従前の取引の場合と同じように受け付けたので、当然に寄託名義の変更がなされたものと信じ、原告振出の前記約束手形を決済した。被告が右の義務に従い本件荷渡指図書の受付けを拒絶してくれていたならば、原告は、右約束手形の決済を拒否することができ、したがって、損害を未然に防止することができた筈である。原告は、被告の告知義務等の違反により、本件荷渡指図書に記載の貨物の売買代金に相当する金額の損害を受けた。

よって、原告は、被告に対し、前記物品の引渡しを求めるかわりに、それに相当する金員すなわち売買代金額合計三二五〇万円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和六〇年九月五日から支払済みに至るまで年六分の遅延損害金の支払を求める。

四  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は、被告が倉庫業等を営む会社であることを認め、その余の事実は不知。

2  同2(一)、(二)の事実は否認し(ただし、原告において、仁科産業が土師産業に対して発行し土師産業が裏書した荷渡指図書(一一〇九号)を昭和六〇年一月一八日に被告の摩耶埠頭倉庫に郵送したこと、仁科産業が原告に対して発行した荷渡指図書(一三三三号)を同年三月一八日に被告の摩耶埠頭倉庫に呈示して預け、その写しに被告の受付印を得たこと、仁科産業が土師産業に対して発行し土師産業が裏書した荷渡指図書(一三二五号)を同年四月一七日に被告の摩耶埠頭倉庫に呈示して預け、その写しに被告の受付印を得たことは、認める。)、同2(三)の事実は認める。

3  同3(一)および(二)の冒頭の事実を否認し、同3のその余の主張は争う。

五  抗弁

本件各荷渡指図書は、裏書譲渡が無効とされているものである。

六  抗弁に対する認否

否認する。

七  被告の主張

1  原告は昭和六〇年一月一八日頃、被告の摩耶埠頭倉庫に電話で、ビルマ産黒マッペSQ一〇〇〇袋、船名MAW-LAMYAINGは入庫しているか否かを問い合わせてきたので、同倉庫勤務の牧野は、入庫している旨回答した。この際、寄託者名義等についての照会はなかった。

原告は、同月一八日、被告の摩耶埠頭倉庫に仁科産業発行の荷渡指図書(一一〇九号)を郵送してきた。右荷渡指図書には、荷印欄に「MITSUI」の記載があり、被告は、三井物産株式会社からビルマ産黒マッペSQ三〇〇〇袋、船名MAWLAMYA-INGの寄託を受けていたが、三井物産発行の荷渡指図書がなく、また右荷渡指図書には、裏書譲渡無効と記載されているのに、土師産業の裏書があるので、不審に思ったが、三井物産発行の荷渡指図書が呈示されたときに仁科産業に照会・確認することにして、とりあえず右荷渡指図書(一一〇九号)を預かることとした。

2  原告は、同年三月一八日、仁科産業が発行した荷渡指図書(一三三三号)を被告の摩耶埠頭倉庫に呈示した。右荷渡指図書には、荷印欄に「MEITOH」の記載があり、被告は、日商岩井株式会社からビルマ産黒マッペSQ二〇〇〇袋、船名MAWLAMYAINGの寄託を受けていたが、日商岩井および明糖油脂工業株式会社の各荷渡指図書がなかったので、とりあえず右荷渡指図書(一三三三号)を預かることとした。また、被告はその写しに同日付の受付印を押捺して原告に交付したが、これは、荷渡指図書の呈示を受けた日時を明らかにするためであって、それ以外の意味はない。

3  原告は同年四月一八日、仁科産業が発行した荷渡指図書(一三二五号)を被告の摩耶埠頭倉庫に呈示したので、被告はその写しに同日付の受付印を押捺して原告に交付したが、これも、右に述べた理由からであって、それ以外の意味はない。右荷渡指図書には、荷印欄に「KATOH」の記載があり、被告は、株式会社加藤商会からビルマ産黒マッペSQ四〇〇〇袋の寄託を受けていたが、加藤商会の荷渡指図書がなく、また右荷渡指図書(一三二五号)には、裏書譲渡無効と記載されているのに、土師産業の裏書があるので、加藤商会発行の荷渡指図書が呈示されたときに仁科産業に照会・確認することにして、とりあえず右荷渡指図書(一三二五号)を預かることとした。

4  同月二五日頃、原告が被告神戸支店にマッペが在庫しているか否かを照会してきたので、同支店の大田は、在庫している旨回答した。しかし、寄託名義人の荷渡指図書が呈示されていないので、被告から仁科産業に照会したところ、仁科産業は、本件各荷渡指図書は融通手形を商取引上の手形に見せるために発行したいわゆる空荷渡指図書であって、それに記載された貨物を原告が引き取ることはないと回答した。そこで、被告は、同月二六日、原告に対し右各荷渡指図書を返還する旨伝えたが、原告が受領を拒否したので、同年七月一八日、右各荷渡指図書を原告に郵送した。なお、仁科産業は、同年六月一五日、振出した手形を不渡りとして倒産した。

5  仁科産業は本件各荷渡指図書に記載の貨物の寄託者ではないところ、原告は、寄託者発行の荷渡指図書がないことを知っていながら、本件各荷渡指図書を被告に預けたものであって、被告に対していかなる権利も有しない。被告は、原告とのこれまでの取引において、寄託者から原告までの荷渡指図書が連続し、かつ指図の取消しがないときに、原告の出庫要請に応じていたのであり、原告に対する売主の荷渡指図書のみで寄託者の名義を変更したことはない。また、そのような荷渡指図書のみで名義変更をする慣習もない。

6  荷渡指図書の授受は、倉庫業者の関知しないところで貨物の売主と買主間の信用により複雑になされているのであって、その取引の中間過程で照会があっても、倉庫業者は、貨物の存否について回答するのみであって、寄託者名義については、特に照会がないかぎり、回答しない。

《以下事実省略》

理由

一  被告が倉庫業等を営む会社であることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告は海陸産物、諸雑貨、鉄鋼その他の加工品の販売および貿易を業とする会社であることが認められる。

二  原告が昭和六〇年一月一八日、仁科産業が土師産業に対して発行し土師産業が裏書した被告を被指図人とするビルマ産黒マッペ(もやしの原料豆)SQ一〇〇〇袋の荷渡指図書(一一〇九号)を被告の摩耶埠頭倉庫に郵送したこと、原告が同年三月一八日、仁科産業が原告に対して発行した被告を被指図人とするビルマ産黒マッペSQ一五〇〇袋の荷渡指図書(一三三三号)を被告の摩耶埠頭倉庫に呈示して預け、被告がその写しに受付印を押捺したこと、原告が同年四月一七日、仁科産業が土師産業に対して発行し土師産業が裏書した被告を被指図人とするビルマ産黒マッペSQ一五〇〇袋の荷渡指図書(一三二五号)を被告の摩耶埠頭倉庫に呈示して預け、被告がその写しに受付印を押捺したことは、当事者間に争いがない。

三  寄託契約上の債務不履行責任について考えるに、

1  原告は、右各荷渡指図書に記載されたマッペは、荷渡指図書の発行人である仁科産業が被告に寄託していたものを右郵送、呈示、交付ないし受付印の押捺により原告のために保管されることになったものであると主張する。

しかしながら、一般に、倉庫寄託契約に関して、受寄者の副署のない荷渡指図書が作成された場合、所持人は受寄者から寄託物を受領する資格を有することになり、受寄者は、正当な所持人に荷渡指図書記載の貨物を引き渡せば、寄託者との関係でその引渡しの結果につき免責されるが、所持人が受寄者に対して寄託物の引渡請求権を取得することにはならないと解されているところ、所持人が受寄者に荷渡指図書を郵送ないし呈示をしただけでこのような引渡請求権を有する寄託者の地位を取得することになるとは解することができない。また、荷渡指図書の発行人とそれに記載された受寄物の寄託者とは必ずしも同じではないから、後記4判示のとおり、寄託者と荷渡指図書の所持人との間に連続が認められなければ、受寄者が出庫あるいは寄託名義の変更に応ずることはないけれども、将来、右連続が補完されることがあるので、受寄者は、所持人から呈示された荷渡指図書を預かり、保管することになる。したがって、荷渡指図書の所持人がそれを受寄者に交付し、受寄者がこれを受領しても、それだけでは所持人と受寄者の間に寄託契約が成立したことを意味しない。

2  《証拠省略》によると、前記争いのない受付印は、その日付の日に被告が荷渡指図書の原本を受け取ったということを示す趣旨で、その写しに押捺されたものであり、そのほかの意味はないと認められるから、右受付印の押捺によって原告が右荷渡指図書に記載された貨物について寄託者になったということもできない。

原告は、被告は荷渡指図書の呈示があると、寄託者台帳と照合して確認した後に受付印を押捺してこれを原告に返還するのであるから、右受付印は、寄託者台帳の変更を意味すると主張する。《証拠省略》によれば、被告は、荷渡指図書の呈示を受けたときは、保管台帳によって照合し、被告の保管する貨物に関するものであると確認することができれば、これを受領し、未出庫の荷渡指図書のファイルに編綴することを認めることができるが、これによって、原告のいうように、寄託者台帳の寄託者名義の記載が変更される取扱いになっていたことを認めるべき証拠はない。

3  原告は、原、被告間には、仁科産業発行の荷渡指図書の交付ないし受付けをもって、寄託名義が原告に変更される旨の特約ないし慣習があったと主張し、従前の倉庫取引例として、甲第七号証の一ないし一九を援用するけれども、同号証の一ないし六、一一ないし一六の荷渡指図書には被告の受付印がなく、原告がこれらを被告に交付したと認めるに足る証拠はない。同号証の一七、一九の荷渡指図書は、被告と関係がない。同号証の七ないし一〇、一八は原本の存在とその成立に争いがなく、これらによると、これらの荷渡指図書は、仁科産業が発行し、本件の荷渡指図書(一三三三号、一三二五号)の場合と同様、写しに被告の受付印を得て、原本を被告に交付したものであると推認されるけれども、《証拠省略》によると、これらの荷渡指図書に記載された貨物は、その後、原告から仁科産業に買い戻されていること、《証拠省略》によれば、そのほかの仁科産業発行の荷渡指図書についても、すべて仁科産業が買い戻していたことが認められ、そうすると、原告が仁科産業発行の荷渡指図書によって被告から貨物を出庫したことはないということになり、原、被告の従来の取引関係から右主張のような特約ないし慣習があったと推認することはできない(。)《証拠判断省略》

4  《証拠省略》によると、被告を含む倉庫業者の取扱いとして、荷渡指図書の所持人が貨物を出庫し、あるいは受寄物の寄託名義を自己に変更するには、中間取得者の裏書ないし荷渡指図書によって、倉庫業者に対する寄託者から所持人までの連続があることが必要であるとされていることが認められるところ、《証拠省略》によれば、本件の各荷渡指図書に記載された貨物の寄託者は、それぞれ三井物産株式会社、明糖油脂工業株式会社、株式会社加藤商会であると認められるから、被告は、これら各社の発行する荷渡指図書がない以上、原告が本件貨物を出庫し、あるいはその寄託者を原告に変更することに応じなかったと考えられる。

5  原告は、本件貨物は仁科産業が輸入業者に輸入手続を依頼し、依頼された輸入業者が被告に寄託したものであり、このことは、被告も知っていたのであるから、もとの寄託者は仁科産業であると主張するけれども、仮にそうだとしても、荷渡指図書に記載された荷渡先ないしその所持人は受寄者に対して寄託物の引渡請求権を有しないから、被告が寄託契約上の責任を負わないことは、仁科産業が本件貨物の寄託者でなかった場合と変わらない。

6  原告は、荷渡指図書の交付により寄託名義の変更、貨物の占有および所有権の移転を行うことは、近畿地方のこの業界の慣習であると主張するが、この主張を裏付けるに足りる証拠はない。

7  原告は、毎月末日に、被告の摩耶埠頭倉庫に対し電話で、本件貨物の存在および数量の確認をしたところ、その都度、被告の摩耶埠頭倉庫の担当者は、本件貨物を原告のために保管している旨回答したと主張するけれども、《証拠省略》によれば、原告は、本件貨物が被告の摩耶埠頭倉庫に入庫しているかどうかを問い合わせただけで、荷主からの荷渡指図書が被告に届いているかどうかの問合わせはしなかったことが認められる。そして、被告の担当者が本件貨物を原告のために保管している旨回答したことを認めるに足る証拠はない。

以上の次第で、本訴のうち寄託契約上の債務不履行責任を問う請求は、理由がない。

四  原告は、予備的請求として、被告が本件各荷渡指図書のみによっては寄託名義の変更ができないことを知りながら、原告の寄託名義変更の要求に対して何ら異議等を言わずに本件荷渡指図書を受け付けたとし、さらに、被告の担当者が本件貨物があるかどうかおよびそれが仁科産業の依頼による寄託物であるかどうかについての原告の再三の問合わせに対し、確かに仁科産業から右貨物の寄託を受けている旨回答をしたことが不法行為を構成すると主張する。しかしながら、《証拠省略》によれば、被告の取扱いとして、寄託名義を変更する場合には新たな寄託者から寄託申込書を提出させていることが認められるから、荷渡指図書を郵送ないし呈示しただけで寄託名義の変更を要求したとみることはできないし、被告の担当者が本件貨物について仁科産業からの寄託物である旨回答したことも、これを認めるに足りる証拠がないから、その余の点について判断するまでもなく、予備的に問う不法行為責任の請求も、理由がない。

五  よって、本訴各請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民)

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